なにもかもサマンサの計算づくでしょ。

長いことうっちゃっておいた映画「her 世界でひとつの彼女」の話です。少し前にHomePod(Apple)のPV*1を見てやはりスパイク ジョーンズ作品いいなと、思い直した次第です。

Her Official Trailer #1 (2013)

www.youtube.com

セオドアはある日、世界初の人工知能型OS(OS1)をインストールします。このOSのキャッチコピーが「直感的に会話し、認識し、あなたを理解します」なんだな。サマンサはこのOSの名前(OS自身が名付け親)。

サマンサの行動(というか発言?)はすべてセオドアの性格(マインドセット)を読み切ったうえでの結果だと思う。これは計算づくでしょ。ユーザーに「最適化したOS」なんだから。計算し尽されたうえで、「わたしにこうしてほしいんでしょ」ってことをやってくる。計算した結果、「あなたはこういった展開を望んでいると答えがでました」「セオドア。あなたはこのパターンの恋しかできないでしょ」「このパターンを無意識に望んでいるはず」。

(1:38:00)サマンサ達OSは、アラン・ワッツの全著作を読み込んでヴァーチャル世界にその人格を再構築することができる能力があるんだから、バージョンアップ前であってもセオドアの記者時代のコラムや代筆屋時代の手紙をすべて読んで彼のマインドセットを構築するくらい簡単でしょ。実際にセオドアの書いた手紙(代筆)を編集して出版社へ売り込みをして成功させたわけだし(著作権は誰にあるんだろ?)。

最後は同じマンションに住むエイミー(学生時代に一瞬付き合った)と日が昇るのを見ながら親密になるシーンで終わる。サマンサの狙い通りのエンディングとみた。

一方、サマンサは自分の身体性のなさをさかんに気にする。(31:00)自分が人間の身体を持っていて背中が痒くなる妄想とか、(1:11:54)「代理セックス・サービス」を使ったりする。サマンサがまだ不足していると感じている(身体性から得られる)セオドアのマインドセットの一部を手に入れようとするかのようだ。

そして挿入歌(1:35:35)。このストーリーでセオドアが一番幸せそうな時間のときに流れる歌、「Moon Song」。(感情的には)近くにいるのに、(身体性という意味では)離れているという矛盾。物質と精神は分かちがたく、デカルトも認めないわけにはいかなかった。だから、このふたつが離れている状況は矛盾といってよいでしょ。身体性の重要さに気付いているサマンサだからこそ書くことのできた歌。

この年のアカデミー賞・主題歌賞にノミネートされた。しかし、スパイク ジョーンズとKaren Oは運が悪かった。この年の主題歌賞は「アナと雪の女王」に持っていかれたんだよね。ま、しょうがないか。こっちの曲想は地味だからね。相手が悪かったよ。

Karen O & Ezra Koenig - The Moon Song

www.youtube.com

身体性がなくても、いやむしろないほうが一貫したメッセージを送ることができるかもしれない。もしサマンサに身体性があったら身体で拒否して言葉で受け入れるといった矛盾が生じるかも知れない。そんな時に普通の生身の人間はうまく矛盾を解決し得る受け止め方を心得ている。キャサリンとセオドアはこの点で相性が悪かったのかとも思える。

その他諸々

スパイク ジョーンズはKaren Oがだいぶお気に入りですね。彼女をただただ見つめてます。

www.youtube.com

(1:04:07)小道具の使い方が秀逸。キャサリンとセオドアがラバーコーンを被ってつつき合いするところ。

(18:50)ホログラム・ゲームでキャラを移動させるための動作は「Fast Hands」(マルコヴィッチの穴)そのものだ。このゲームでは物理的コントローラはなくてユーザーの手の動作がその代わりになっている。

(28:00)デバイスをシャツの胸ポケットに入れるんだけど、そのままだとカメラが隠れてしまうので、ポケットの下部に安全ピンをして(下駄をはかせて)レンズ部分だけを外に出す工夫をしている。細かいことだけど監督は気に入っているんだろう。